About
ライブが進むにつれて、人間味がむき出しになっていく。その最初の衣装として、現実と非現実の境界に佇む「壊れたキューピッド」をイメージしました。まるで本当にここに存在しているのか分からないほど、神格化された存在として描いています。 一見すると「フィギュアのように可愛いあのちゃん」。しかし、ライブの中で溢れ出す、人としての湿度や脆さはとても美しい。骨が露わになった翼、歪んだ衣装、侵食していく錆、そして足元に配したバネは、「生きている人間ではない存在」であることを示しています。 「錆びる」という現象は、金属が本来の姿へと戻ろうとする自然なプロセスです。それは人間にとっての「涙」に近いものだと感じています。 社会の中で酸化されながらも、それでも自分のままでいようとすること。音楽や衣装が、その手助けとなる感覚。 「涙くん、今日もおはようっ」に救われた日を思い出しながら制作しました。
Staff Credit
Stylist : Momomi Kanda
Costume design : Fuka Otsuka(AMNI)
Pattern maker : Yuca Komine
Costume sewing : Ami Ooyama, Ririko Ishii, Emika Takano, Saki Harada, Miyuko Yamamoto
Wing structure support : Nobutaka Mukai(digs image)
Background
ステージでの見え方、翼を背負った上でのパフォーマンスをする方法を、スタイリストの神田百実さんと話し合いを重ねました。 歪んだシルエットのパターン、作り物のような硬質さと艶を持つプリント、スパンコールによる錆の質感表現、そして一瞬で着脱可能な、圧倒的なスケールの翼。いずれも確かな技術を持つプロフェッショナルの力によって形になったものです。 また、あの翼でパフォーマンスすることは容易ではなく、本番直前まで試行錯誤を重ねていました。 anoさん自身は、最終形態での通しは一発本番だったにも関わらず、翼という制約を感じさせないステージを見せてくれました。
Chapter 01
— Design|デザイン —
一見するとフィギュアのように完璧なシルエット。しかしそのモチーフには、“錆”や“歪み”といった、内側からにじみ出る感情を込めている。 実離れした二次元的な可愛さと、どこか悪意や脆さを含んだ人間味。その相反する要素が共存する存在を、ひとつの造形に落とし込んだ。 骨が剥き出しになった翼は、壊れかけのキューピッドを象徴している。カラヴァッジョの絵画《愛の勝利》。ありのままの生き様を、武道館という大きな舞台で魅せるanoの姿が、このキューピッドと重なったことが、デザインの出発点となった。 「錆びる」という現象は、金属が本来の姿へ戻ろうとする、ごく自然な反応でもある。人間に置き換えるなら、それは涙のようなものだ。 社会の中で酸化されながら、それでも自分のままでいようとすること。音楽や服が、そのための支えや逃げ場になる感覚。anoの楽曲「涙くん、今日もおはよう」とも重なるモチーフとして、“錆”をこの衣装の核に据えた。

衣装デザイン画
Chapter 02
— Toile|トワル —
パタンナーは小峯有華さん。「360°どこから見ても立体的で、なおかつ途中から歪ませたい」という無茶なオーダーを、見事に形にしていただいた。 小峯さんが構築した完成度の高い立体ワンピースに対し、デザイナーが立体裁断で“歪み”を加えるディテールを施し、意図的な違和感を生み出している。

Chapter 03
— Textile|生地作り —
目指したのは、「生地」ではなく、鉄でできた身体。そこに錆が侵食していく姿を表現するため、光沢のある生地にシリコンで錆柄をプリントしている。 プリント手法やパターンのパーツ量を考えると、一般的な柄合わせが成立するテキスタイル設計では、辻褄が合わなかった。 また、上から下へと赤錆が広がっていくイメージを持たせるため、錆の密度をグラデーション状にプリント。それに合わせた裁断を行うことで、身体に沿った自然な流れを作り出している。

生地にシリコンで、錆に見える柄をプリント
Chapter 04
— Sewing & Decoration|縫製・装飾 —
「フィギュアや遊園地の乗り物といった“作り物”が壊れかけている」という軸をぶらさないこと。それを最優先に、細部を積み上げていった。 柄の色が切り替わる部分では、あえて糸の色も変える。錆の表現は手刺繍で、長い時間触れられてきたような“手垢”の質感を残した。 錆は単色ではなく、よく見ると複雑な色が混じり合っている。その奥行きを表現するため、約10色のスパンコールやビーズを使用し、剥がれ落ちそうな影や、微妙な色の変化を重ねている。

10色のスパンコール・ビーズの手刺繍で錆を生み出す
Chapter 05
— Wings|翼の制作 —
鉄の骨組みにウレタンで形を組み、リアルさを追求するために削り出していった。最大の難関は、ライブの間奏中に着脱できる構造にすることだった。 ・背中から生えているように見せたい ・生きているように骨を揺らしたい ・スムーズに着脱できるようにしたい このすべてを成立させるため、直前まで試行錯誤を重ねた。特殊造形師・向井伸貴さんを迎え、本番数日前には骨組みから作り直している。 パフォーマンス中の遠心力にも耐えられる強度を優先した結果、ano本人への負担は決して軽くなかった。それでも、それを感じさせない圧倒的なパフォーマンスを見せてくれた。